「火の元に注意してさえいれば火災に遭遇することはない」と考えられがちですが、実際に火災が発生する要因は、自身あるいは自社の責に帰す原因だけではありません。
どんなに注意を払っていたとしても防げない火災、放火や予期せぬ自然発火、隣接する周囲からの延焼、自然災害に起因する出火などは防ぎきれない可能性を秘めています。
特にオフィスビルにおいては、平常時に火災を引き起こす要因がほとんど見当たらず、また万全に近い防火体制が整っていることが多いため、一般的な考え方では火災に備える必要性と結びつけて考えることは難しいでしょう。
可能性がゼロではない限り、万が一起こってしまった場合に備えることこそが防災対策であり、本コラムではオフィスビルで火災が発生した場合、特に地震発生後の二次災害として火災が発生した場合に焦点をあて解説いたします。
企業の災害対策の現状
一般に、企業が制定するBCP(事業継続計画)では、自然災害、特に地震が起こった場合を想定していることが多いようです。
そのため、企業で一般的に採用されている災害対策は、1.避難訓練、2.食糧備蓄が中心ですが、火災についても想定している企業ではこれらに加え 3.消火訓練(バーチャル) も実施されています。
消防法に基づく災害対策について、総務省消防庁が地震対策を中心に指導している以上、これらは当然のことと言えるでしょう。
しかし、実際に地震が発生した場合、一般住宅においては倒壊の可能性が高い家具等がかなりの密度で並んでいるのに対して、オフィスビルでは屋内スペースに余裕があり、強度の高い事務机等もあるため、倒壊さえ免れられれば生存率はかなり高くなると考えられます。
また、大地震発生後は余震が必ず発生するため、むやみに建物の外に飛び出さず、倒壊さえ免れていれば建物内に留まっていたほうが危険は少ないとも考えられます。
ですが、いかなる場合でも建物内が安全という訳ではありません。万が一、オフィスビル内で地震がもたらす二次災害である火災が発生してしまった場合は、一般住宅よりもかえって危険度が高くなってしまいます。
二次災害における火災の原因は様々で、OA機器のショート、漏電、給湯室のガス漏れなど多岐にわたっていますが、これらが原因で一旦オフィスビル内で火災が発生してしまった場合、有害物質・有毒ガスを含んだ煙が瞬く間に充満してしまう恐れが高く、密閉された建物内の空間において発生する有毒物質・有毒ガスの総量は一般住宅のそれとは比べものにならないレベルにまで発展してしまう可能性があります。
密閉された建物内で有毒ガスが発生する可能性を考慮し災害対策を検討した場合、
地震よりはむしろ火災の方がより切迫した災害であるとも考えられます。より深刻な被害をもたらす可能性があるにもかかわらず、バーチャルな消火訓練を防災対策として完結してしまっている場合、実際に火災が発生し、有害物質・有毒ガスを含む煙で呼吸ができず、視界を妨げられるような状況に遭遇した際に、訓練時同等の行動を取れる保証はどこにもありません。